第2章 2/26(日) ハンピ村、ホスペット
トゥクトゥクドライバーは若いようだ。
これからハンピ遺跡へ行くということを話したら乗り気になってきた。
程なく本日のホテル、オーキッドに到着。
門から車寄せまで距離がある。
ホスペットでも一、二を争う高級ホテルらしい。
ロビーには大きな吹き抜けがあり、二基のエレベーターが上下している。
午前9時頃なので当然チェックインはできないが、荷物は快く預かってくれた。
待たせていたトゥクトゥクに乗り込んでハンピ村に向かう途中で交渉を開始する。
今日、明日の二日間、ガイドもするしバスチケットの紹介、明日のバス乗り場まで送るところまでやるということで話をまとめていく。
歩いて回れる範囲ではなさそうだし、その都度トゥクトゥクを頼んでいては効率的でないし、明日の深夜出発のバスまで過ごす手立ても必要だ。
相談に乗ってくれるということで全部で5,000Rsでまとまった。
安いか高いか分からないが、丸二日間これだけのサービスを提供してくれることに対して自分としては常識的な範囲と考えた値段だ。
ドライバーとしては上客をつかまえたというところかもしれない。何しろ苦労して客を探さなくても良いのだから。
ここは需要と供給のバランスが合ったというところだろう。
ドライバーの名前は、ゲグアー君、25歳、若い!!
ハンピ村へ行くために夜行バスの往復、ベンガルール空港一時閉鎖の影響もあるが、この次のケーララ州コーチンへの到着が深夜になるというハードなスケジュールになったが、その分ハンピ遺跡への期待が高い。
ハンピ村へ行く途中に踏切がある。
列車が通過するらしく遮断機が下りている。
しかしこれが一編成の列車を通すために5分位は開かない。
当然すべての車両やそれ以外が集まってくるわけで混沌としてくる。
通過していく列車は長い編成の客車列車で人々がぎっしり乗車しているようだ。
寝台もある。
さすがに屋根に人は乗っていないが通路までぎっしりといった感じに見える。
当初はベンガルールからこれで行こうかとも考えていたけれど、これはトイレどころじゃあないぞ、バスで正解だったと思った。
遮断機が空いたとたんにすべての車両やそれ以外が殺到する。順番なんて関係ない。
牛やら何やらもいてそれはすごい騒ぎだ。
道は片側一車線の左側通行だが、例によって三車線あるいは一方通行状態になっている。
これで事故をあまり見かけないのがー実際にはあるのだろうけれどー不思議だ。
ホスペットの街もベンガルールのような都会から比べればかなり田舎だが、ハンピ村は観光と巡礼だけが産業というとても素朴な村らしい。
ゲグアー君によれば、今日は入場無料の遺跡を回って、明日は共通チケットで回れる遺跡に行くというプランだ。
地元民のプランにお任せした。ただ、今日の午後にはヘーマクータの丘に登りたいというリクエストはしておいた。
トゥクトゥクをとばして約20分、岩山群が見えてきた。
ハンピ遺跡だ。
ハンピ村は14~16世紀にかけて南インドを治めた王朝の都。
現在は岩山に囲まれた自然が豊かな観光地であるとともに寺院が現役で機能している巡礼の地でもある。
そして、なんと言うかこれまでに経験したことのないような活気のある田舎町なのだ。
人間と動物、家畜が共生している。
牛、ヤギ、ブタ、サル、リス等々。
犬や猫は当たり前として、彼らが普通にそのあたりに佇んでいる。
ヤギはヤギ使いがいて飼われていることがわかるが、その辺りに佇んでいる牛はどうなんだろう。
動力として車を引っぱっている牛もいるが、ただ佇んでいるだけというものもいる。
ヒンドゥーは牛は聖なる生き物だからということは分かるが、ではブタはどうなんだろう。
おそらく飼われているのだろうが、犬のようにそこらを歩き回っている。しかも子ブタ付きだ。
サルとリスもそこら中にいる。サルは大きい。
不思議と馬とロバがいない。
これは失礼しましたと言うか、シャッターを押した瞬間にこのようなことになってしまったもので、路上で行うというのがほほえましい。
ハンピバザールという所がこの村の中心部で、土産物店、食堂、ゲストハウス等がひしめいている。
独特の雰囲気がある。緩い雰囲気だ。
色々な人種の観光客、一日中そこに佇む老人、乞食、顔を極彩色に塗った行者らしき人々、どこにでもいる何をしているのかわからない人々・・・・・・・
古い言葉だが、ヒッピーがしっくりくる雰囲気、マリファナが似合いそうな雰囲気とでも言おうか。
ゲストハウスには何日も滞在している旅行者がいそうだし、ここでの長期滞在はおそらく楽しいだろうが、現実からかけ離れそうだ。社会復帰が難しいだろう。
まずは、朝食ということでゲグアー君のお馴染みらしい川沿いのレストラン、チルアウトへ。
ここはとても気持ちの良い風が吹いてくる。
寝そべれる席もあって、またまた緩い雰囲気に満ちている。
ただし下水臭いのだが。
だが、これはどこでも同じだ。牛のふんとかゴミとか色々と道には満載でサンダルで歩く気にはなれない。
地元の人達は裸足でも平気なようだ。
トイレの床が常に濡れていることを考えれば面倒がなくて良いのだろうけれど、ちょっと無理だ。
さて、朝食を済ませてから遺跡巡りを始める。
今日は無料で行けるところばかりで、最後に特に行ってみたかったマータンガヒルへ登るというのは外せないのだ。
遺跡間は結構距離があるので徒歩で回るのは無理がある。トゥクトゥクか最低でもレンタサイクルは必要だろう。
しかし、一人だと道が分からない。ここはガイドがいた方が良い。
石でできた巨大建築物が遺跡の殆どで、寺院と王宮が多くを占める。
色彩感には欠けるが細工が細かいのと、いったいどうやって作ったのかと思えるものが多くて面白い。
復元したものも多いのだが、現実に礼拝が行われているところもある。
不気味な格好をした行者のような人達もいるが、写真を撮らせたり寄付をねだったりの金目当ての輩もいるようだ。
途中、ハンピバザールが見渡せるヘーマクータの丘へ登ると、下の寺院の方から打楽器と笛による音楽が聞こえてきた。打楽器はタブラだろうか。
場の雰囲気に溶け込んでいてしばらく聞き入ってしまった。
ガネーシャ神
遅いランチは例のチルアウトへ。
今度はサンドイッチにしてみた。これがとても美味い。
キングフイッシャーがあるよという。つまりビールだ。メニューにはないのだが。
当然飲む。美味い。やっぱりこれだよな。
ヒンドゥーも飲酒の習慣はあまり好まないということで、大っぴらには飲酒しないらしい。
このあと待望のマータンガヒルへ。
岩山を登ること40~50分。
地元らしき若者たちはサンダルで登ったりしているようだが、足を滑らせたら転落して死亡だ。何せ岩山なのだ。
登るにつれてハンピ遺跡の全貌が見えてくる。
頂上には礼拝をするのだろうか、石の小屋がある。
そういえば去年の今頃はサハラ砂漠の砂山を登っていたな。
頂上に他に人はいない。
一人で30分位リラックスしていたのはサハラ砂漠の時と一緒だ。
この風景も日本で見ることはあり得ないだろう。
親子連れらしい人達が登ってきた。
下界でゲグアー君との待ち合わせの時間もある。
今日はここまでにしてホテルへ戻ってチェックインすることにしよう。
本日のホテル、「ロイヤル・オーキッド」はホスペットでも高級ホテルのようで楽しみの一つだ。
案の定、フロントの対応もしっかりしているし、吹き抜けにエレベーターだ。
案内された部屋は広くて、カーテンを開けたら地平線まで見えるほどの眺望の良さ。
左手に川が見える。
ここでビールを飲みたい。
日本だったらホテル内でも気軽に買えるのだが、ここではそうでもないようだ。
荷物を置いて鉄道駅方向へ歩いてみる。
ベンガルールに比べれば、車も人も少ない。
ホテル前の鉄道駅への通りはメインストリートなのだろう、店も結構ある。
とりあえず駅でATMを見つけて現金を調達するが、大きい札しか出てこない。
これは結構困るのだ。
おつりがないという事態になってしまうのだ。
この先、うまく両替していかなければならない。
おじさんたちが隠れて飲んでいるような立ち飲み屋と言うよりは酒屋をようやくみつけて、やっとキングフィッシャーを購入した。
早速ホテルへ戻ってシャワーの後に飲む。
最高だ。
余裕が出てくると、もっと強い酒が欲しくなる。
先程の酒屋を再度訪問。ウイスキーを買ってきた。
改めて見てみると、酒屋自体が目立たない雰囲気だし、ここで飲んでる連中もいるが、何となく恥ずかしそうにひっそりと飲んでいる。
背徳的なのだ。
夕日が沈むのを見ながらゆっくり飲むのは、サルバドールの時のようだなと思ったりする。
夕方の川沿いを散歩している人達がいる。
列車の汽笛の音が聞こえてくる最高のロケーションですっかり気持ち良く飲んでしまった。
夕食は、当初は外で食べようと思っていたが、どうも近場には適当な食堂がなさそうなのでホテルのレストランで食べてみることにした。
豪華な雰囲気だ。
従業員の動きもきびきびしている。
量が多い。カレーがかなり辛い。
昨日までのカレーはもっと穏やかだったような気がする。
雰囲気は豪華だが味はイマイチというところか。
お客さんは欧米人観光客が多いようだ。
部屋ではWifiが楽につながるので、何だかんだしていると眠くなってきた。
今日は昨日の夜行バスのようなトイレの心配がないのでゆっくりと飲める。
明日はゲグアー君と10時にホテル門前で待ち合わせ。
ホテルはチェックアウトして荷物は引きあげてしまう算段だ。
昨日からあまり寝ていない。
今日はゆっくりと休もう。