REBENTO
皆様、こんばんは
夕陽のコントラストが凄かったので
梅雨明けが遅れて当初の猛暑予想が撤回されたと思ったら、連日続く35度以上の猛暑日に参っている方も多いでしょう。
ご自愛ください。
最近演奏している曲で歌詞が気になっているナンバーが、ジルベルト・ジルの「REBENTO」という曲です。
弾きながら歌っているのですが、意味を聞かれることもままあり、小生の少ないポルトガル語の知識でも、何となく、男と女とか恋とか愛とかの内容ではない気がして(通常歌詞によく使われる単語があまり出てこない)、全体から受ける印象と70年代後半のジルベルト・ジルの作品ということから、トロピカリズモを背景とした政治的な歌詞を含んでいるのでは、みたいなことでお茶を濁していたのですが、最近やっと訳が手に入りました。
当たらずとも遠からずというところでしょうか。いや、遠いか。
今回は、この歌詞を引用しながら進めてみます(ジルベルト・ジル作、国安真奈訳)。
まず、テーマであるREBENTO(ヘベント)ですが、英訳ではSHOOTとなっていますが、日本語訳では
「REBENTO(芽)
それは抽象名詞
ある行ない 創造 そしてその時
神だけが知っている 大空に輝く新しい星」
と来ます。
「抽象名詞」の文法的意味はよく分からないのですが、文字通りアンチ具体性とした方が面白そうなので、REBENTOは具体的なものではないと解釈しました(間違っていたら指摘してください。)。
そして、
「生まれくるものはすべて REBENTO(芽)だ
生まれ 育ち 成長するものはすべて 芽 だ
大地に咲く花のように明るい芽 風にたなびく麦のように豊かな芽」 と成長的、肯定的な印象で進みます。そして、
「しかし時にREBENTO(破裂する)は単なる直接法現在形(indicativo)」と怪しくなってきて
その後は
「歯をむき出し唸る犬を繋ぐ鎖のように 働く農夫の両手のように
時に原子炉の事故のように危険な 時に私はいらいらしてREBENTO(爆発する)
時に私はたんに生命力に溢れているので爆発する」と来ます。
確かに芽だからゆくゆくは実をつけて最後には破裂するという意味づけも可能かなという気もしますし、あるいは新星も最終的には爆発して消滅するんですよね。
しかし「直接法現在形(indicativo)」の意味は何なんでしょう。
別に意味付けする必要もないかもしれませんね。
現代国語の時間じゃないんだから。
最後のサビ的な部分は
「REBENTO それは落胆を前にした 条件反射
REBENTO それは苦しみの一撃に 攻撃を叫ぶ心
REBENTO 森にこだまするこの雷鳴 そして 今この瞬間の 音の無限さ」
ということで結んでいます。
はじめに抽象名詞と言っているので、REBENTOの具体的意味づけを放棄して、心象スケッチを進めるための道具や触媒と見ていいのだとすると、例えばREBENTOが「ん」でもいいのかもしれません。
ジルベルト・ジルの前向きではあるが穏やかならぬ当時の心象風景を描いたとでも言うことができるのでしょうか。
もうちょっと考えてみたいですね。
こういう硬派な詩は好きです。
日本語訳を読んだときは、西脇順三郎の「あむばりわりあ」やT.S.エリオットの「荒地」を思い出してしまいました。
こういう作品に曲がついても面白いでしょうね。
その昔、70年代に活躍した日本人のフリージャズピアニスト、原遼さんはその後ハードボイルド作家になって、「そして夜は甦る」とか「天使たちの探偵」など、チャンドラーに対するリスペクト溢れるハードボイルド小説を発表しました。
日本の探偵小説の中では第一級品の硬質な文章で、ピアノスタイルと通じるところがあると思いました。
大好きな作家です。
何故かこんなところに想いが飛んでしまいました。
ではでは